交通系ICカードは、鉄道・バスなどの交通利用だけでなく、商業系電子マネーとして日々の生活を支える社会インフラとして発展しており、2016年度の国内での累計発行枚数は1.3億枚を突破している。2013年3月以降、10(テン)カード※1と言われる全国10種類の交通系ICカードの相互利用サービスが開始され、1枚のカードで公共交通機関を利用できる範囲が大幅に拡大した。
交通系ICカードは、Suicaをはじめとした10カードのほかに、全国各地域で鉄道会社やバス会社が、地域独自カードを発行しており、合計で40種類以上のICカードが発行されている。
利用エリアの拡大に伴う利用者の増加により、交通系ICカード発行枚数も増加している。
※1. 10(テン)カードとは、全国で相互利用できる10種類のカードで、Kitaca(北海道旅客鉄道)、Suica(東日本旅客鉄道)、PASMO(パスモ)、TOICA(東海旅客鉄道)、manaca(名古屋交通開発機構・エムアイシー)、ICOCA(西日本旅客鉄道)、PiTaPa(スルッとKANSAI)、nimoca(ニモカ)、SUGOKA(九州旅客鉄道)、はやかけん(福岡市交通局)をさす。
【図表:交通系ICカード市場規模予測(累計発行枚数)】
■相互利用/片利用の推進もコスト負担の増加が課題<
地域独自カードを展開する鉄道事業者は、利便性を考慮して相互利用に対応する事業者と地域のニーズに応じた独自サービスを重視し、地域独自カードを維持したまま10カードの片利用※2を導入する事業者、相互利用または片利用を採用しない事業者に分かれる。相互利用または片利用の導入においては、導入コストの負担が大きく、国や地方の補助金※3に頼らざるを得ない事業者が大半である。
また初期投資のみならず、維持・管理コストの負担を考慮すると、結果として、導入を見送るケースが多くなっている。将来的に全国レベルでの導入を想定すると、低コストで、相互利用/片利用が可能な交通系ICカードシステムの構築が急務であるものと考える。
※2. 片利用とは10種類の交通系ICカード(10カード※1)を地域独自カードの導入エリアで利用できる仕組み
※3. 国土交通省では交通系ICカードの普及拡大を目的に、公共交通機関の利便性向上や訪日外国人旅客を含む地域外からの来訪者の移動円滑化などに対する様々な施策を掲げており、補助金交付もこうした取組みを促進する一環である。
■地域に根差したサービス提供の推進
特に地方の鉄道事業者では、単なる乗車券や定期券としての利用だけではなく、地域の利用者ニーズに応じた独自サービスを展開している。一例ではチャージ額に応じた積み増しや、利用に応じたポイント加算、電車やバスの別区間を利用した際の乗り継ぎ割引き、高齢者・障害者向け割引サービスなどを採用するケースが多い。
その他、加盟する商業施設での電子マネー利用や提携する駐車場・レンタカー利用、大学、銀行とのポイント連携なども展開されている。
■交通系ICカードのスマートフォン対応に期待
交通系ICカードは、利用エリアの拡大等を背景に、2021年度には累計発行枚数ベースで約2.2億枚に達すると予測する。将来的には、スマートフォンの普及や新たなIT技術の進展のほか、少子高齢化社会の進展といった環境の変化に対応し、誰にでも利用しやすい社会インフラを構築していくことで、高齢者等の利用も増えていくものとみる。
また、今後2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催に向け増加が見込まれる訪日外国人客向けサービスの開発や、地方鉄道と連携した交通系ICカードの普及を通じた地域活性化の取組みも、市場拡大に寄与していくものと考える。
さらに、Apple Payへの対応を開始したモバイルSuicaのようなスマートフォン活用も、JR東日本(東日本旅客鉄道)以外の鉄道事業者での導入は進んでいないものの、将来的には全国レベルで導入が進み、社会インフラとして発展していくことが期待されている。
…ほか
調査対象:交通系ICカード発行事業者、駅務機器ベンダー、SIer等
調査期間:2016年12月~2017年11月
調査方法:当社専門研究員による直接面談、電話・e-mailによるヒアリング、ならびに文献調査併用
※交通系ICカード市場とは:本調査における交通系ICカードとは、鉄道やバスなどの公共交通機関で、乗車券として利用できるICカードをさす。
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