自動車に搭載されたカーエレクトロニクス機器において、特定機能を提供するためにECU内に組み込まれた車載ソフトウェアの歴史、状況を下表にまとめた。
【図表:車載ソフトウェアの歴史】
※1.車載HMIとは、コクピット周辺のシステムで、ドライバと車両の間で情報の仲介を行う。 主な役割として、①入力機能=スイッチ、タッチパネル、音声認識等、②出力(表示)機能=ディスプレイ、音声ガイド等、③ADAS表示における選別機能等を持つ。
参考資料:「eコクピット世界市場に関する調査を実施(2016年)」(2017年1月23日発表)
※2.コネクテッドカーとは、情報通信端末としての機能を有する自動車、及びその機能をさす。車両の状態や周囲の道路状況などの様々なデータをセンサにより取得し、ネットワークを介して集積・分析することで、新たな価値を生み出すことが期待されている。
※3.参考資料:「自動運転システムの世界市場に関する調査を実施(2016年)」(2016年12月26日発表)
今後、メカトロニクスを超え、新しい「頭脳を持つクルマ」に求められる車載ソフトウェアの時代が訪れようとしている。2020年、2025年に向けての車載ソフトウェアは、もはやパワートレイン系、シャシー系など走行系の装置だけに活用されるものではなく、むしろ情報系、車載HMI、ADAS向けでの活用が中心となる。さらにその後2030年に向けては、自動運転カーにおいてAI・画像解析等のクラウドを活用した車載ソフトウェアの活用が重要になってくると考える。
今後、自動運転時代に向けてクルマ1台当りの車載ソフトウェアは大容量化(コード量の膨張)し、難易度も高まっていくため、OEM各社ごとにバラバラに開発していたのでは、開発費用がかさんでしまう。そこで、各社とも車載ソフトウェアにおいて標準化を実現し、過去のソフトウェア資産を有効活用し合うことで、できるだけ開発コストを縮小する取り組みを始めている。
AUTOSAR(オートザー、Automotive open system architecture)は、「クルマのECUにおけるソフトウェア」の標準化を実現するための仕様を策定・公開している団体名であり、そのプラットフォームの仕様の名称である。これまでAUTOSARは欧州を中心に推進されてきたが、国内のOEMやカーエレメーカー、組み込みソフトウェアメーカーはその取り組みを強化している。
【図表:AUTOSARによる競争領域/非競争領域(標準領域)の違い】
上図はAUTOSARの競争領域/非競争領域(標準領域)の概念を図示したものである。上図のようにAUTOSARシステムの標準領域では通常は競合する企業間であっても過去のソフトウェア資産を有効活用し合うことで、できるだけ開発コストを縮小すべく図っている。ただし上部の競争領域(アプリケーション)では、OEMを始めとした企業間で激しい開発競争が行われることになる。
AUTOSARは将来的には「①AUTOSAR CP(AUTOSAR Classic Platform)」と「②AUTOSAR AD(AUTOSAR Adaptive Platform)」の2つに分かれていく見通しである。①は走行系(パワートレイン系、シャシー系)向けのプラットフォームで、②は情報系、車載HMI、ADAS向けのプラットフォームであり、将来的には自動運転に対応していくと考える。
2016年の国内車載ソフトウェア市場規模(事業者売上高ベース)は、前年比138.3%の
5,250億円であった。車載ソフトウェアの大容量化を背景として、2020年の同市場規模は7,475億円、2030年には9,950億円に拡大すると予測する。
【図表:車載ソフトウェア市場/AUTOSAR関連市場規模推移と予測】
また、国内の車載ソフトウェア市場のうち、2016年のAUTOSAR関連市場規模(事業者売上高ベース)は前年比185.5%の115億円であった。今後、国内においても、開発コストを縮小する取り組みとしてAUTOSARは推進され、2020年の同市場規模は415億円、2025年は1,050億円、2030年には2,050億円になると予測する。2015年には車載ソフトウェア市場全体の1.6%に過ぎなかったAUTOSARの構成比だが、2030年には車載ソフトウェア市場全体の20.6%を占めるまでに拡大するものと予測する。
但し情報系、車載HMI、ADAS/自動運転に対応する車載ソフトウェアの標準化プラットフォームはAUTOSAR ADだけではない。グーグルのAndroid Autoなど車載ソフトウェアの標準化プラットフォームとして競合になりそうな存在もあり、AUTOSAR ADが今のところ最も有望なプラットフォームではあるが、唯一の存在になるかどうかは予断を許さないと考える。
■レポートサマリ
●eコクピット世界市場に関する調査を実施(2016年)
■アナリストオピニオン
●コネクテッドカー時代はロックでやってみましょう!
●「オートモーティブワールド2017」レポート 自動運転時代に向けて自動車産業の態度軟化、さらに進むIT・IoT業界との連携
●「あなたは見られている!」 ドライバモニタリングの裏側で密かに進む自動運転時代のビジネスモデル
●「オートモーティブワールド2016」レポート 自動車はソフトウェア/コネクテッドカー時代に。次世代切り開くのはAIとサイバーセキュリティか?!
調査期間:2017年1月~5月
調査対象:国内・海外の自動車メーカー(OEM)、カーエレクトロニクス機器(カーエレ)メーカー、車載用組み込みソフトウェアメーカー(OEM系列、カーエレメーカー系列、半導体メーカー系列、独立系)、開発ツールベンダ、及びコンサルタント等
調査方法:当社専門研究員による直接面談、電話・e-mailによるヒアリング、ならびに文献調査併用
※車載ソフトウェアとは:本調査における車載ソフトウェアとは、自動車に搭載されたカーエレクトロニクス機器において、特定機能を提供するためにECU(Electronic control unit)内に組み込まれたソフトウェア及びその開発ツールを指す。
※AUTOSAR関連市場とは:本調査におけるAUTOSAR(Automotive open system architecture)関連市場規模は、車載ソフトウェアの標準化を実現するための仕様であるAUTOSARに準拠したソフトウェアを対象として算出した。
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