矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

レポートサマリー
2016.10.04

地方創生における地方銀行の動向を調査(2016年)

事業性評価を伴う融資の推進や銀行同士の広域連携、幅広い事業者との協業がカギ

調査の背景

地方創生とは、従来からの東京一極集中を改善するとともに、地方の人口減少に歯止めをかけ、日本全体の活力向上を目的とした一連の政策である。政府は、2015年末にまち・ひと・しごと創生総合戦略(2015改訂版)を公表している。

【図表:地方創生の総合戦略について】

【図表:地方創生の総合戦略について】
  • 内閣官房まち・ひと・しごと創生本部資料をもとに矢野経済研究所作成

本調査では、新たなプロジェクトへの投融資を担う、地方経済の基盤である地方銀行を対象とし、地方創生における動向や今後の見通しについて、とりまとめた。また、①金融庁や経済産業省の政策のインパクトの大きさと内容、②メガバンクと地方銀行の地方創生をきっかけとした協業意欲、③地方銀行間での統合意向、④FinTechやデビットカードなど新しいトレンドへの対応動向、⑤変革実現のスピードの5項目を考慮しながら、予測する。

地方創生による地方銀行の動向や今後の見通し

【図表:地方創生における地方銀行の動向(~2019年度)について】

【図表:地方創生における地方銀行の動向(~2019年度)について】
  • 矢野経済研究所作成

■ローカルベンチマークを活用した事業性評価を伴う融資が、地方銀行において活発化
融資の面では、ローカルベンチマーク※1の活用が広がり、事業性評価を伴うABL(動産担保融資)※2や「地方創生私募債」などの私募債による融資事例が、地方銀行において増加すると考える。その結果、融資額全体としては、横ばいではあるものの、事業性評価を伴う融資額の割合が徐々に増え、従来の担保を伴う融資額と同等、もしくはそれ以上の割合を占めていくと予測する。また、現在ベンチャー企業は事業性評価を伴う融資による恩恵を十分に受けられていないものの、中小企業への融資事例が増えるにしたがって、ベンチャー企業が恩恵を受ける可能性が出てくるとみる。

■地方銀行同士の広域連携から緩やかな統合へ展開すると予測
広域で連携していくDMO※3や従来の地方銀行の情報システム共同化などをきっかけとした、地方銀行同士の広域連携がより活発化していくと予測する。また、広域連携をきっかけとしたホールディングス(持株会社)の設立など、緩やかな統合が増えていく可能性がある。更に、メガバンクによる地方銀行の買収、統合も始まる可能性があるほか、ホールディングスを設立するなど大型化した有力地方銀行による積極的な買収・統合が進む可能性もある。

■株式取得制限の緩和など銀行法改正の可能性
現状、銀行法上では一般事業会社の株式取得を制限されているが、地方銀行が連携し系列の投資ファンド経由で一般事業会社を買収する事例が増えてきた場合には、制限緩和に対する声も高まってくる可能性があり、銀行法の改正に向けた議論が始まると考える。現状、ファンドの組成や移住ローンなどの金融商品、融資などに留まっているが、銀行法が改正された場合には、地方銀行による取組みの幅が広がり、地域への資金流入を更に後押しする効果に繋がることが期待されている。

■デビットカードを活用した地方創生プラットフォームの構築を予測
地方創生にデビットカードを活用する事例が登場している。一例として、地方銀行が地域内のさまざまな小売店舗をパートナーとして巻き込んで、地域活性化に取組むなど、地域経済の活性化に繋げる事例が出てきている。多くの地方銀行がデビットカードの発行を開始もしくは開始を予定しており、地方創生への応用事例が今後、更に増えていくことが期待される。

■幅広い分野において、大手SIerとの協業が活発化
特にリレーションシップバンキング※4を掲げる地方銀行を中心に、DMO※3や農林水産業の6次産業化、医療・介護など、ICTと関連性の強い、幅広い分野において大手SIerと協業が活発化していくと考える。また、地方銀行と大手SIerの協業により、大手SIerが地方創生をテーマとして一部地域で手掛けるハッカソンやアイデアソン※5をソリューション化して全国で展開する動きや、そこで生まれたアイデアなどから業界横断型もしくは業界特化型のソリューションが生まれてくると予測する。

■地方創生関連領域でのベンチャー企業との積極的な協業やFinTech活用の加速化
多くの地方自治体が、地方版総合戦略においてベンチャー企業支援を掲げており、DMO※3やCCRC※6などの地方創生関連領域においてベンチャー企業の参入が進み、これらのベンチャー企業と地方銀行との協業が積極化すると考える。その結果、地方創生をきっかけに、地方銀行と幅広い事業者との協業が活発化し、イノベーティブな事業やソリューションが創出されていくとみる。
また、FinTechは、地方銀行とベンチャー企業の協業に直結する代表的な分野である。特にクラウドファンディングや決済、クラウド会計などの領域において、地方銀行での活用が加速する可能性がある。クラウドファンディングについては「ふるさと投資」が、一方、決済については訪日外国人客によるインバウンドマーケット対応に向けたスマートフォンやタブレット端末を活用したクレジットカード決済などが、それぞれ広がっていくと予測する。加えて、クラウド会計の領域では、銀行と融資先の間で財務データを共有する事例も一部にあり、クラウド会計を通じて融資に繋げていく動きも今後、増えていくであろう。

※1.ローカルベンチマーク…経済産業省が公表した、財務情報に関する指標と、非財務情報に関する視点から、企業の健康診断を行うためのツール。
※2.ABL(動産担保融資)…企業の事業活動を形成する在庫や売掛金、機械設備などに担保を設定する融資手法。
※3.DMO(Destination Management Organization)…欧米で普及している、自然や食、芸術など地域にある観光資源を活用し、観光地域作りを行う取組み。
※4.リレーションシップバンキング…金融機関が顧客との間で親密な関係を長く維持することにより、顧客に関する情報を蓄積し、この情報をもとに、貸出等の金融サービスの提供を行うビジネスモデル。
※5.ハッカソン、アイデアソン…アメリカのIT企業やスタートアップで始められた、ある特定のテーマについて多数のエンジニア、デザイナー等を集めて、アイデア創出やビジネスモデルの構築などを短期間で行うイベントのことを指す。
※6.CCRC(Continuing Care Retirement Community)…高齢者が集まって街を形成し暮らすコミュニティ、高齢者住宅、 生活サービス、介護・看護・医療サービスなどを一箇所で総合的に提供していく取組みを指す。


調査要綱

調査期間:2016年6月~2016年8月
調査対象:メガバンクや地方銀行、官民ファンド、大手SIer、ITベンチャー企業等
調査方法:当社専門研究員による直接面談、電話・e-mailによるヒアリング、ならびに文献調査併用

山口 泰裕(ヤマグチ ヤスヒロ) 研究員
ITを通じてあらゆる業界が連携してきています。こうした中、有望な業界は?競合・協業しうる企業は?参入障壁は?・・・など戦略を策定、実行に移す上でさまざまな課題が出てきます。現場を回り実態を掴み、必要な情報のご提供や戦略策定のご支援をさせて頂きたいと思います。お気軽にお声掛け頂ければと思います。

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