矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

アナリストオピニオン
2010.04.19

移動体通信事業者が「スマートフォンビジネス」を拡大させるのに必要なものは?

3月5日(金)に弊社主催のセミナー「2010年のスマートフォン市場を探る」を開催し、非常に多くのお客様にご参加いただきました。ご多忙の中、足を運んでくださったお客様につきましてはこの場を借りて御礼申し上げます。

アンドロイド搭載製品が2010年度のスマートフォン販売の中枢を担う

国内の携帯電話端末市場は、加入者の飽和や景気の影響を受けて前年割れの状況が続いている。そんな中スマートフォン、データ通信端末などを利用した「モバイルデータ通信」は拡大傾向にある。特にスマートフォンは市場からの注目度が高い。国内では(米)アップル「iPhone」、(米)グーグルが主導する「アンドロイド」、(米)マイクロソフトが主導する「ウインドウズフォン」(ウインドウズモバイル)、(加)リサーチ・イン・モーション(RIM)「ブラックベリー」といった製品が日本市場に導入されている。中でもアップルiPhoneはこれまで法人やアーリーアダプター層の利用に留まっていたスマートフォンを一般に広く知らしめた最大の功労者である。

現在、国内の移動体通信市場で大きな話題となっているものとして「アンドロイド」が挙げられる。アンドロイドはグーグルが主導して開発を進めるスマートフォンン向けOSで、グーグルが無償提供する「G-Mail」「グーグルマップ」など各種クラウドサービスの利用に最適化されている事が最大の特徴となっている。アンドロイドは世界中の通信事業者や端末メーカーが支持を表明しており、国内でも大手3社からアンドロイドを搭載した製品の導入が計画され、2010年度はアンドロイド搭載製品がスマートフォン販売の中枢を担う事となる。

異業種の海外企業参入で、収益が伸び悩む国内通信事業者

スマートフォンビジネスはこれまでの国内通信事業者主体のビジネスモデルとは異なり、海外企業が主体となっている。中でもインターネット・クラウドサービス系企業の存在感が大きく、グーグル、アップルの支配力が強いと言える。グーグルは「検索」をはじめとする無償インターネットサービス、アップルは「Mac」「iPod」に代表されるコンピュータデバイス、RIMのブラックベリーは企業向けプッシュ型メールサービスをベースとしたソリューションといった具合に、異業種からの参入である。こうした新興企業の場合、製造設備を持たず、EMSやODMといった企業に開発と製造をアウトソースする事で原価低減と利益の確保を両立させている。また、ソフトウェア、サービスで差別化を図るなど、既存メーカーのビジネスモデルと大きく異なっている点が特徴となっている。

国内でiPhoneを販売するソフトバンクモバイルの場合、iPhoneの販売が好調により新規加入者を大幅に増加させ、データ通信サービスの上限料金に達するユーザーの比率が既存の携帯電話と比較して高い事からARPU(加入者一人当たりの月間収入)の向上に繋がった。しかし、iPhoneの場合、アプリケーションストア「AppStore」はアップルによってコントロールされ、ソフトバンクはコンテンツサービスの収入(手数料収入)が得られない。また、iPhoneの稼動数増加とトラフィックの急増により、基地局の増設やWiFi(公衆無線LAN)の活用を強いられるなど運用面での負担が増加しているのも事実である。これはソフトバンクに限った話ではなく、iPhoneを扱う海外の事業者も同様の問題を抱えている。

スマートフォンビジネス収益拡大のポイントは3つ

通信事業者がスマートフォンビジネスを拡大するにあたり避けて通れないのがトラフィックの増加に伴うネットワークの増強と負担緩和である。その有効手段としてWiFiの活用が注目されている。また、ネットワークの高速化やカバーエリアの充実にも目を向ける必要があり、通信事業者のインフラ投資負担は増すばかりの状況である。最近ではスマートフォンに加え、ネットブックを中心としたモバイルデータ通信の需要が増加しておりこれらを含めた「ワイヤレス・ブロードバンド」市場が急成長を遂げている状況にある。
こうした状況下において通信事業者が単なるインフラビジネスに留まらず、収益を拡大するにあたり、先ずは増大するトラフィックを収益に結びつける事が重要である。加入者が契約する定額の上限料金に一人でも多く到達させる事、トラフィックの増加に伴う負担軽減(迂回手段の確保)対策をきちんと取る事が求められる。2010年度後半、NTTドコモがサービスを開始する「スーパー3G」(LTE)はこうした問題を解決する有効手段として期待されている。

次に、アプリケーションマーケットを含めたWebサービスを自社顧客に提供する事が挙げられる。最大の鍵は通信事業者自身が持つ「モバイルインターネットサービス」の運用経験に有る。国内市場では通信事業者が主体となって端末、サービスの仕様を決定し、ビジネススキームを構築してきた。中でも課金・回収代行のプラットフォーム構築は音声サービス以外の収入源確保を目的として導入したものであり、現在はそれをベースとして金融サービスを提供しており、通信事業者にとって競争力の源泉となっている。また、10年以上のモバイルインターネットサービスの運営経験により、音楽、ゲーム、電子書籍といったコンテンツ流通の仕組みが出来上がっており、これらをスマートフォンに適応させた形で提供する事が可能な筈である。実際、KDDIが2010年夏季に発売するアンドロイド端末向けに提供されるアプリケーションマーケット「au one Market」では携帯電話向けに提供されていた「EZナビウォーク」や「LISMO!」といった人気サービスを移植し、話題のAR技術(拡張現実)の「セカイカメラ」などを提供する。

そして、アプリケーションマーケットの整備が遅れる状況下において、コンテンツビジネスで市場参入を目論む企業への積極的な支援が求められる。参入を目論むものの、複数存在するプラットフォーム全てを手掛ける事は企業にとって負担が大きい。各プラットフォームベンダーが提供する開発キットとは別に、通信事業者のアプリケーションストアに対応したツールを提供する必要性がある。具体的にはウインドウズフォン、アンドロイドなど異なるプラットフォームや、スペックの違い(具体的には画面解像度など)に対応した「変換ツール」の提供である。

一方で業界の動きとして、世界の通信事業者24社が共通アプリケーション流通システムを提供する業界団体「Wholesale Applications Community」(WAC)の設立を発表した。WACにはJIL(中国移動、ソフトバンク、ベライゾンワイヤレスが加盟)、LiMo(NTTドコモ、テレフォニカ、SKテレコムなど)、OMTP(Vodafone、ドイツテレコム、Orangeなど)といったアライアンス団体が加盟しており、共通化されたアプリケーションプラットフォームの整備を進めている。WACの設立にはアップル「AppStore」の脅威が背景にある。他のアプリケーションマーケットについても特にアンドロイドマーケットへの期待は非常に高いものがある。しかし、2010年初頭の状況から見る限り、アプリケーションマーケットが開設されてから1年以上の時間が経過しているにも関わらず、登録アプリの質・量共に「AppStore」との差は広がるばかりの状況にあり、優秀な開発者を積極的に支援し、早期にWin-Winの関係を構築する事が業界全体の活性化に繋がる事を認識すべきである。

スマートフォンへの注目が高まる一方、よりシビアになるビジネス環境

世界のモバイルビジネスが「オープン化」の潮流にある中、国内の通信事業者はスマートフォンビジネスへの関心を高め、今年は例年以上に新製品を導入する見通しである。アプリケーションストアについても、「AppStore」向けに配信されたアプリの他プラットフォームへの移植やゲームなどが充実するものと見られる。
その一方で現在のスマートフォンビジネスへの注目度の高さは「ミニバブル」の様相を呈しているのも事実である。ワイヤレス・ブロードバンド時代における中心的なデバイスとなるのは間違いないものの、依然として不透明感が漂う。このような状況下であるからこそ、通信事業者はモバイルインターネットサービス構築時以上に積極的な働きかけを行い、国内から世界に羽ばたく企業を育成して貰いたい。

総務省は通信事業者各社に対し、SIMロック解除を求めていく方針が明らかとなった。現在の移動体通信ビジネスの環境下では事業者毎に運用している規格や周波数帯が異なり、各社のモバイルサービスへの接続の観点から、従来からの携帯電話では影響は少ないが、オープン環境下でビジネスを展開するスマートフォンでは少し事情が異なる。
SIMロック解除により国内メーカーの開発自由度を上げ、国際競争力確保を狙っているものの、海外メーカーの参入障壁を下げると同時に、国内メーカーの再編を加速させるものとなる筈である。

スマートフォンへの注目度が高まる一方で、ビジネス環境はよりシビアになる状況下、通信事業者やメーカーには本当の意味でユーザーのメリットに繋がるサービスを開発して貰いたい。同時にクリエイターが革新的なサービスを開発し、市場がより活性化させてくれる事を期待したい。

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賀川 勝(カガワ スグル) 上級研究員
新興国が先進国に取って替わり世界経済を牽引している現在、市場が成熟化するスピードも早くなっています。そのような状況下でお客様にとって本当に価値ある情報を最適なタイミングでご提供出来る様、常に心掛けております。

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