シェアリングエコノミーサービスとは、「不特定多数の人々がインターネットを介して乗り物・スペース・モノ・ヒト・カネなどを共有できる場を提供するサービス」のことを指す。当社レポート「シェアリングエコノミー市場の実態と展望 2016」ではシェアリングエコノミーサービスの対象となる共有物を「乗り物」、「スペース」、「モノ」、「ヒト」、「カネ」の5つのカテゴリーに分けている。
シェアリングエコノミーが注目されているのは、海外で先行的に普及したAirbnbやUberなどのサービスが日本にも登場したためである。2014年3月はライドシェアサービスを提供するUber Technologiesが日本でのサービスをリリースし、2014年5月には世界中の人々と部屋を貸し借りする「個人宅の宿泊サイト」を提供するAirbnbが日本法人を設立した。
Airbnb及びUber Technologiesは創業から10年にも満たない企業だが、Airbnbの時価総額は既にヒルトングループを超えており、またUber Technologiesの時価総額はゼネラルモーターズを超えているとも言われている。このような急成長企業が日本市場に参入したため、日本のメディアはこれらの企業を「黒船」などとこぞって取り上げた。そのため、民泊やライドシェアなどのシェアリングエコノミーサービスの存在が急速に認知されることになった。
図表は、シェアリングエコノミー事業者の売上高ベースでの市場規模である。なお、シェアリングエコノミー事業者の取扱高ではないため注意願いたい。
【図表:シェアリングエコノミー市場規模推移予測(2014~2020年度)】
矢野経済研究所推計
各カテゴリーの中で最も市場規模が大きいのは、「乗り物のシェアリングエコノミーサービス」であり、2015年度の構成比は市場全体の約74%を占めている。
「乗り物」のシェアリングエコノミーサービスとは、「会員間で車や自転車などの乗り物を共有し、利用できるサービス」と「移動手段を探している人と乗り物の所有者・運転者をマッチングする相乗りサービス」がある。前者は一般的に「カーシェアリング」、「サイクルシェアリング」などと言われており、サービス例としては「タイムズカープラス」、「オリックスカーシェア」、「カレコ・カーシェアリングクラブ」、「アースカー」、「COGICOGI」などが挙げられる。後者は一般的に「ライドシェア」、「配車アプリ」などと言われており、サービス例としては「Uber」、「notteco」などが挙げられる。
乗り物のシェアリングエコノミーサービスの中では「カーシェアリング」が大部分を占めており、「ライドシェア」の占める割合はまだ僅かである。カーシェアリングは、国内に登場したのが2002年と古いこともあり、2015から流行したその他のシェアリングエコノミーサービスと比較すると規模が大きくなる。
シェアリングエコノミーサービス市場全体の2014年度~2020年度の年平均成長率(CAGR)は17.1%となり、2020年度に600億円に達すると予測する。
乗り物のシェアリングエコノミーサービスであるカーシェアリングは「自動車メーカー」をはじめとする既存の自動車業界に影響を与えていく可能性がある。具体的には、カーシェアリングの利用が増えるとその分自動車の販売台数が減少する可能性がある。欧米では、都市部への車の流入規制が広まりつつあり、都市部における交通手段の一つとしてカーシェアリングサービスが利用されるようになってきている。そのため、カーシェアリングサービスが普及すると都市部を中心に自動車販売が減少すると言われている。
そのため、欧米の大手自動車メーカーは、カーシェアリングサービスの普及に伴う自動車の販売減に備えて、カーシェアリング事業への取り組みを本格化している。つまりハードの販売で稼げない分を、サービスでカバーしていこうとする戦略である。ドイツのダイムラーやBMWなどが先行して取り組んでおり、米国のゼネラル・モーターズも同様な取り組みを始めている。
欧米の大手自動車メーカーのこのような取り組みは「サービスへのシフト」以外にも「車離れの若者の取り込み」も目的にしている。つまりカーシェアリングサービスによって車離れをしている若者に車の利便性を認識してもらい、将来的な車の購入につなげていきたいという考えである。
欧米の大手自動車メーカーが積極的にシェアリングエコノミーサービスに取り組んでいるのに対して、日本の大手自動車メーカーは、将来的な車の販売減を懸念してか、あるいは既存の販売店からの反発を意識してかは不明だが、海外メーカーに比較するとカーシェアリングサービスへの取り組みにまだまだ積極的とは言えない。
弊社としては、日本の大手自動車メーカーは、将来的にシェアリングエコノミーサービスが普及した時の影響を考慮し、シェアリングエコノミーサービスにもっと積極的に関わっていくべきと考える。この分野を競合他社に先に押さえられてしまうと、ハードが売れなくなった時にサービスへのシフトを進めづらくなってしまう可能性があるためである。また前述したような車離れをしている若者に自社の車を利用してもらい、新たな購入につなげていくといった取り組みも進めづらくなってしまう可能性があるためである。
シェアリングエコノミーサービスが既存業界に与える影響は現時点ではまだ小さいが、自動車者業界に限らず関連する業界の企業は、その将来的な普及に備えた対策を立てていくべきだろう。
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