矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

アナリストオピニオン
2015.07.01

IoTビジネスを見据えた日台連携の可能性を考察する

日台IOTビジネスフォーラムに参加

2015年6月に台湾・台北で開催された展示会「COMPUTEX TAIPEI2015」の取材で訪台した際、同イベントに併せて開催された「日台IoTビジネスフォーラム/台日智慧産業交流論壇」(主催:経済部中小企業処、4G行動商務応用服務連、運営:TCA/台北市電脳商業同業公会 2015年6月2日)に参加し、更に6月4日には台湾最大の通信事業者中華電信(CHT)を訪問する機会を得た。
日台IoTビジネスフォーラムには、台湾から政府関係者、流通、教育、医療・介護、IT企業業界の関係者100名、日本からは台湾を含むアジアでビジネスを展開する企業の担当者100名が参加し、Internet of Things(IoT)への取り組み状況と、将来展望について発表と討論を行った。IoTと銘打っているものの、「スマートハウス」に重点が置かれた内容だった。スマートハウスにフォーカスした理由として、台湾サイドのリクエストだったと理解している。

2015年6月2日 筆者撮影

日本からは3名の方が登壇された。
神奈川工科大学 工学教育研究推進機構 一色 正男博士
演題:「スマートハウスの現状」
組込みシステム技術協会(JASA)清水 徹理事(慶應義塾大学)
演題:「IoTに向けた日本の取り組み」
㈱インターネットイニシアティブ(IIJ)シニアコンサルタント 慶野 文敏氏
演題:「スマートメーター“Bルート”の可能性とセキュアな検針プラットフォーム」

先ずはスマートコミュニティニティアライアンス(JSCA)https://www.smart-japan.org/ でご活動されている神奈川工科大学の一色博士が講演し、日本の「スマートハウス」の現状と、ご自身が策定に大きく関与したスマートハウス向け通信プロトコル規格「ECHONET Lite」の概要を説明した。更にスマートメーターの普及計画として経済産業省スマートハウス標準化検討会で進められている2024年迄の全世帯へのスマートメーター設置計画やHEMS(Home Energy Management System)について、電力会社、ハウスメーカー、電機メーカー各社の取り組み事例を併せて紹介している。最後に「ECHONET Lite」が国際規格であり、且つオープンプラットフォームである事をアピールして講演を締めくくった。
続いて講演された組込みシステム技術協会(JASA) http://www.jasa.or.jp/TOP/ の清水理事は、組込ソフトウェア業界の立場からIoT社会の実現に向けた仕組みと課題を解説し、「ノーマリーオフ・コンピューティング」(省電力化実現の為に必要最低限の電力のみ稼働させ、積極的に電力を遮断する技術)がIoT時代のキーテクノロジーとなる事を説明。ノーマリーオフ・コンピューティングを具現化するデバイスとして不揮発性メモリの活用を挙げ、実際の活用シーンとしてオンデマンド交通システムの事例を挙げていた。もう一つのキーテクノロジーとして高精度GPSの活用を挙げ、高精度測位のメリットを解説した。
日本側の代表として最後に講演されたIIJの慶野氏は同社のIoTビジネスへの取り組みを説明。IIJは2016年から電力小売事業への参入を計画しており、スマートメーターとHEMS間を繋ぐ通称「Bルート」について、仕様・技術要件と併せて解説した。IIJは6月より法人を対象にスマートメーターの実証実験を開始、2016年度より商用サービスを計画しており、その際には通信サービスとのセット割引やビッグデータを活用した利用提案を行い、電気の使用量抑制(電気料金削減)を付加価値として提供する事を説明していた。また、実際の電力使用量のモニタリング状況や、ビジネスロードマップが披露している。
その後台湾サイドからも幾つかIoTに関する取り組み事例等の説明があり中華電信が全国の交差点に監視カメラの設置を進めている事例を説明した。

【図表:スマートメーターの概要とECHONET Liteの摘要範囲】

【図表:スマートメーターの概要とECHONET Liteの摘要範囲】

討論会で挙がったテーマ

その後行われた討論会は台湾サイドから質問が相次いだ。主な質問として下記が挙がった。

・スマートハウス普及の具体的な方策について
・IoTで新しいニーズを本当に作り出せるのか?

スマートハウスについて、日台間で位置づけに相違がある。日本におけるスマートハウスは東日本大震災を機に「HEMS」に代表される省エネ化にシフトしているのに対し、台湾を含む海外では、セキュリティ、家電の集中コントロールといった家庭内ネットワークの構築に主眼が置かれている。
その上で、一色博士が「ECHONET Lite」がオープン規格として策定され、国際標準規格として策定されていること、第三者による認証機関を設置し多くの企業の参入を促しサポートする体制を構築していること、政府機関・他の業界団体との積極的な連携に取り組んでいることを挙げ、オープンプラットフォームとして多くの業界、企業が参入できる機会を設けること、官民一体となって取り組むことがスマートハウス普及では重要であると回答された。

IoTの市場性について清水理事が、日本が抱える課題として

  • 高齢化社会の到来
  • 人口減少
  • 少子化
  • 安全な社会インフラの構築

を挙げ、IoTはこれらの課題を解決する仕組みとして非常に重要であると説明された。また、IoTはBtoB、BtoBtoC市場が牽引していく事を強調され、スマートハウスについてもコンシューマ市場ではなく、BtoBtoCで普及が進む可能性を言及していた。事前のプレゼンテーション内容もそれを裏付ける内容だったこともあり、台湾サイドも納得した様子だった。
約2時間に渡る討論会は今後も日台間で定期的な交流を継続する事で、合意し和やかな雰囲気で終了した。

6月4日には中華電信に訪問させていただいた。行動通信分公司 副處長の呉勝賢氏からのプレゼンテーションでは、台湾の人口は2,344万人、携帯電話市場の普及率は100%を超える市場であること。台湾では2014年春季に各社から4Gサービスが導入され、サービス開始から1年で約900万の契約数に達しており、台湾に於いても4Gによる携帯電話サービスが急速に伸長していること、中華電信の契約数は2015年第一四半期時点で1,121万契約、シェア37.1%であること、4G契約数が194.8万契約であることが説明された。
更に同社のサービスプラットフォーム「emome」http://www.emome.net/ にスマートフォン向けサービス「Hami」を導入し、動画、音楽、電子書籍、アプリの提供を開始した。中でも動画サービスが人気となっており、ユーザー1人当たりの月間データ通信量8~9GBに達しているという。主に視聴されているコンテンツはドラマ、アニメーションで日本の作品が多いという。emomeでは他にWiFi、Eコマース、ロケーションサービスを提供している。IoT分野について、物流、環境マネージメント、セキュリティ、スマートホーム分野に重点を置いて取り組む方針である事が説明され、プレゼンテーションを締めくくった。

【図表:中華電信「emome」サービス構成】

【図表:中華電信「emome」サービス構成】

2015年6月4日 中華電信プレゼンテーション資料

【図表:中華電信が構想するIoTサービス】

【図表:中華電信が構想するIoTサービス】

2015年6月4日  中華電信プレゼンテーション資料

日台連携を加速させるには?

台湾は、PC、スマートフォン、タブレットといったハードウェア機器の開発・製造を手掛けるEMS(Electronics Manufacturing Service)、ODM(Original Design Manufacturing)ビジネスが世界の製造工場的役割を果たしており、更にASUS、Acer、HTCといった世界的なPC、スマートフォンメーカーを擁する。
日本のエレクトロニクス産業との関係が深く、多くのメーカーが台湾のEMS、ODM企業にPC、デジカメ、ゲーム機の開発・製造を委託している。日台のビジネス上の繋がりが深い分野である。

一方で台湾はサービス、ソフトウェア、コンテンツ産業については、不得手と認識しており、台湾発で世界的に成功した事例は皆無の状況である。それに対し日本はサービス、ソフトウェア、コンテンツ産業では世界有数の市場で、特にゲーム産業やコンテンツ産業では世界レベルの作品を数多く輩出してきた。台湾には日本のドラマ、アニメ、音楽、ゲームコンテンツは広く流通している。
日本は更に移動体通信サービスに於いても世界に先立ってモバイルインターネットサービス、おサイフケータイに代表される非接触ICカードサービスを導入し成功に導いてきた。一時期、日本のモバイルインターネットサービスが台湾の通信事業者にライセンス提供された事があったものの、成功には程遠い状況だった。日台のモバイルサービス間にはコンテンツ価格、課金といったビジネスモデルの大きな相違が存在する。台湾の携帯電話サービスはプリペイド(前払い)料金制度で普及してきた経緯もあり、コンテンツ課金の環境整備が大きく遅れていた。筆者は中華電信の呉副處長に台湾では非接触ICカードのサービス展開の状況を聞いてみたところ「技術的な問題はクリアされているものの、関係各所の調整が出来ておらずサービスの見通しは立っていない」と回答された。この点から台湾には業界がプラットフォーム作りで一致団結し、サービスで差別化を図る視点が欠如しているように見受けられた。

日台間連携を加速させるには、成功例及び失敗例を検証しそれぞれのケースにおける優れた点と改善点を洗い出す事が大切である。先ずは交流する機会を増やし相互理解を深める努力も必要であると考える。

昨年末、元日産自動車のカリスマエンジニアが台湾の自動車メーカー「裕隆汽車(ユーロン)」傘下の企業に副社長として入社したことが話題となった。入社時のインタビュー記事で「日本の自動車産業が生き残るには日台連携が不可欠」と述べている。また台湾がパートナーとして相応しい理由として「社会インフラの基盤が整備され、コストが日本より安いこと。そして日本人と価値観、責任感を共有出来ること」と語っている。既に成果も出ており、同氏が開発を陣頭指揮した自動車は台湾、中国で販売が開始され完成度の高さに市場からは大きな注目が集まっている。最新の成功事例として注目すべき事象だと思う。
IT分野での国際間ビジネス交流は日韓が先行しており、通信事業者間のアライアンスが結ばれ、端末の共同調達や実証実験の実施など様々な試みが行われている。それに対し、日台のIT分野におけるビジネス交流は一部に留まっている。しかし、他業種に目を転じると日台間の国際交流は様々な業界で広がっており、最近では鉄道分野で姉妹提携を結ぶ事例が増加している。両国それぞれが観光に注力していることもあり、今後様々な業界で日台連携の輪が広がっていく可能性が高い。

日本では4G普及に合わせ、MVNO(仮想通信事業者)のサービスに注目が集まっている。現在は格安SIMの販売競争に終始しているものの、今後はIoTや2020年の東京オリンピック/パラリンピック開催に合わせ様々なサービスが導入される可能性がある。特にヘルスケア、医療、交通、物流等に斬新なサービスが生まれる可能性が高い。一方でIoTビジネスにおいてMVNOが担う役割は非常に重要だと考えている。IIJの取り組みは時代を先取りしたものであり、他のMVNO事業者に対しても差別化を図る事が可能と考える。一方でMNO(通信事業者)は同様の仕組みを整備することは容易に想像が出来る。
台湾でもMVNOサービスは導入されているものの、限定されたものであり日本のような活況を呈していない。今後、台湾でIoTビジネスを本格的に立ち上げるのであればMVNOの参入を促す方策は必須であろう。現に中国、韓国も日本と同様MVNOの普及に全力を挙げており、通信サービスの多様性という点において東アジアで取り残されてしまう危険がある。
また、日本についても現在のBluetoothSmart(Bluetooth4.x)やZigBeeといった近距離無線規格に加え、4.5Gに当たるLTE-Mに代表されるIoTに最適化された広域無線インフラの導入を検討する必要性があり、通信技術はともかく機器開発においては日台が協力できる部分は多いと考える。

筆者も定期的に訪台しており、様々な企業の方とお付き合いさせていただいているが、弊社でも微力ながら協力できる機会が増加すればと考えている。
最後に今回のビジネスミーティング及びツアーを企画・運営いただいた台北市電脳商業同業公会(TCA)東京事務所の吉村氏にはこの場をお借りして感謝の意を表したい。

賀川 勝(カガワ スグル) 上級研究員
新興国が先進国に取って替わり世界経済を牽引している現在、市場が成熟化するスピードも早くなっています。そのような状況下でお客様にとって本当に価値ある情報を最適なタイミングでご提供出来る様、常に心掛けております。

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