矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

アナリストオピニオン
2014.12.16

仮想通信事業者(MVNO)が更なる成長を遂げるには?

MVNOが占める割合は僅か2.7%に過ぎない

【図表:国内MNO/MVNO契約数実績/予測】
【図表:国内MNO/MVNO契約数実績/予測】

MNO:2012年度、2013年度:TCA(電気通信事業者協会)、2014年度:矢野経済研究所推計
MVNO:2012年度:総務省 2013年度、2014年度 矢野経済研究所推計

現在、国内の携帯電話市場ではMVNO(仮想通信事業者)が大きな注目を集めている。マスコミに大きく取り上げられ、コマーシャルでの露出も増加しており、「格安スマホ」として一般認知が急速に進んでいる。中でも大手スーパーのイオンが取り扱いを始めたことが決定打となった。MVNOは、大手携帯電話会社(以下MNO)から通信回線を借りて携帯電話サービスを提供するビジネスである。海外では欧米を中心にMVNOが導入されている。日本市場におけるMVNOはスマートフォンでのデータ通信利用を前提としているが、海外で普及したMVNOは音声通話を前提としており、日本と海外ではビジネスモデルが大きく異なっている。
2013年度末の日本のMVNO契約数は1,550万契約(総務省)で、一般に格安スマホとして認識されているSIMカードベースのMVNOサービスはMVNO全体の11.3%に留まっている。現在の国内におけるMVNOビジネスの大半はMNO間の相互乗り入れとインターネットサービスプロバイダ(以下ISP)による再販が主体である。また、移動体通信サービス全体におけるMVNO比率でみれば僅か2.7%に過ぎず、MVNO先進国とされる欧米の15~20%と比較するとサービスの多様性の面で日本のMVNOサービスは大きく遅れている。

【図表:2013年度末国内MVNO事業者業態別契約数内訳】
【図表:2013年度末国内MVNO事業者業態別契約数内訳】

矢野経済研究所推計

MVNOが牽引するスマートフォン料金の低価格化

MVNOが注目される最大の理由は既存のMNOと比較して料金が割安な点が挙げられる。MNOのスマートフォンの月額料金は概ね6,000~7,000円(通信容量は月間7GB迄)で、これに端末の分割代金、や各種サービスの料金が上乗せされる。ところが、多くのユーザーはメール、SNS、Webサイトの閲覧程度の利用であり、通信容量は月間1~2GBで十分事足りるが、MNOには月間1~2GBの料金プランは設定されていないか、割高に設定されているのが現状である。フィーチャーフォンの時代は二段階定額制が導入されていた為、スマートフォンの料金と比較して割高と感じるユーザーが多く、スマートフォンへの移行が伸び悩む理由の一つとなっている。
MVNOのサービスはこうしたユーザーと通信事業者の間に生じた隔たりを埋める事にビジネスチャンスを見出している。提供サービスは通信容量を月間1~3GB、一日当たり40~50MB程度に制限して低価格を実現しているが現在はMNOと同様の7GB迄利用できるサービスや音声サービスの提供も開始している。現在は月額980円(2GB迄)、月額1,980円(4GB迄)のサービスが注目を集めている。

総務省がMVNO育成を後押し

総務省は過去、端末代金と通信料金の分離による料金体系の透明化、新規周波数帯の免許発給による新規参入事業者への免許発給を行い、携帯電話料金の引き下げやMVNOの新規参入を狙ったものの、充分な成果を挙げることが出来なかった。結果、現在に於いてもMNO間の新規契約者獲得を前提としたビジネスモデルから脱却できていない状況が続く。
一方でLTE、WiMAXに代表される第四世代携帯電話サービスの急速な普及や公衆無線LAN(WiFi)網の充実等により通信サービスの周波数効率が大幅に向上し、運用コストの低廉化に一定の目途が立った為、MNOに対し希望するMVNO事業者に対し回線を貸し出す事を促す事が可能となった。現在、総務省はMNOに対して、毎年回線貸し出し料金を引き下げるよう指導しており、2014年3月期の回線貸出料金は前年度の半値となり、貸出料金が右肩下がりとなることでMVNOは安価な料金設定が可能となった。総務省はMNOの経営に影響が出ない限り、貸出料金の引き下げと貸し出し枠の拡大を続ける方針でMVNO事業者にとって最大の課題である回線の確保について一定の目途が立ったと言える。しかし、通信方式、周波数帯の問題やMVNOへの回線貸出価格の安さなどから、NTTドコモの回線に依存する傾向が強く、NTTドコモがMVNO向け回線提供元として大きな地位を占める。

MVNOが抱える課題

MVNOが抱える代表的な課題として下記が挙げられる。

  • 開通手続きに時間が掛かる
  • 店舗網・カスタマーサポート等、リソースの不足
  • 端末ラインアップが少ない
  • 通信速度を含む性能面の不安

コンビニエンスストアでMVNOのSIMカードを購入した際やMNOからMNP(番号移行制度)でMVNOに移行した際に開通手続きに数日を要するケースがある。MNOとMVNO間の回線利用処理のシステム接続が図られていない事に起因しており、新規ユーザーにとって大きな負担となる。
店舗網・カスタマーサポート・運営リソースの不足については、異業種からの新規参入の場合、本業を少人数で運営している事もあり、MVNOサービス運用の為にリソースを拡大することは大きな負担となっている。上記2点の課題については印刷会社、物流会社の大手がMVNO支援サービスとして展開を始めており、MVNO事業者の負担を減らす環境整備が進んでいる。
しかし、カスタマーサポートについて、MVNOは格安スマホとして一般消費者に認知されたこともあり、高齢者やスマートフォン初心者が購入するケースもある。スマートフォンとSIMカードの相性問題やセットアップは初心者には非常に敷居が高く、使い方の説明を含め充実したサポート体制は欠かせない。しかし、現状では充分な対応は期待できない。

端末ラインアップについて、MVNO事業者独自で端末を調達することは困難であり、MNOが販売している端末を利用できるようにする「SIMロック解除」と一般市場に流通する端末を自由に利用できる「SIMフリー端末」の充実が求められている。
SIMロック解除について、総務省は2014年10月に2015年5月以降、SIMロック解除を義務化することを盛り込んだ「SIMロック解除に関するガイドライン」の改正案を発表しているものの、事業者によって通信規格や周波数が異なる為、NTTドコモの端末以外実効性が低い状況にある。
SIMフリー端末について、一部の国内・海外メーカーがSIMフリー端末を導入する動きが活発化している。特に中国の華為技術(Huawei)や台湾のエイスース(Asus)はSIMフリースマートフォン、タブレットを複数機種日本市場にSIMフリー製品を導入している。価格についても2万円以下のスマートフォンが数多く出回っている。一方、海外端末を日本国内で販売するには技適マークを取得する必要があり、一定数量の販売が見込めないメーカー系企業以外には負担が重い。
MNOが販売するスマートフォンは消費者の端末購入時における負担を軽減する目的で割賦販売に対応し、更に2年契約で端末代金を割り引く「販売サポート」を導入する等消費者の負担軽減を図ってきた。MVNOもSIMフリー端末のラインアップが増加してきたことを受けてSIMフリー端末とSIMカードのセット販売を導入し始めている。また、大手ECサイトや家電量販店が取り扱いを始め、特に家電量販店では自社でMVNOとしてサービスを提供し始めるなど販路のみならずカスタマーサポートの場としても機能し始めている。

MVNOサービス品質について、回線速度はMNOに依存する部分が大きく自社ではコントロール出来ない部分がある。MNOもMVNOの増加により自社ユーザー向けのサービス品質低下を招くリスクがあるため、継続的な投資負担を強いられる。
MVNOサービスの一部では通信速度を200kbps程度に抑えて低料金を実現したサービスが存在する。メール、SNS主体の利用であれば問題ないものの、最近利用が増加している動画配信サービスの利用には適さない。サービスの多様性の観点から見れば有用な料金形態だが、通信環境の改善に合わせて回線速度の高速化を図るなどの配慮も求められる。

MVNOの在るべき姿とは?

現在のMVNOサービスは「格安スマホ」のイメージが定着してしまい、料金面のみがクローズアップされる状況にある。現在の「格安スマホ」サービスは携帯電話・スマートフォンのサービス内容に明るく、経済効率を追求することに長けたユーザーに向いたサービスであり、現状では価格だけに引きずられて契約するスマホ初心者や高齢者を対象としたサービスではない。一方で大手通信事業者には高いサービス品質、充実したサポート体制、キャリア決済等、MVNOでは実現できない高レベルのサービスを提供できる環境とノウハウを持っており、大手通信事業者は料金面で歩み寄りを見せればスマホ初心者や高齢者はMNOのスマートフォンを選ぶ筈であるが、回線品質の維持や高いレベルのカスタマーサポート体制を維持するには安易な値下げに踏み切れないのが大手通信事業者には辛いところである。
低価格ニーズの受け皿として、海外ではサブブランドを用意してMVNOに対抗している。日本でもソフトバンクモバイルはワイモバイルやディズニーモバイルをサブブランドに位置付け、ソフトバンクと異なるサービスの提供を始めている。
KDDIも2014年8月にMVNO事業を推進する子会社「KDDIバリューイネイブラー」を設立し、2014年12月から「UQモバイル」としてMVNOサービスを開始している。

大手通信事業者がサブブランドを設立すると同時に、MVNO設立の動きを活発化させる一方で、既に「格安スマホ」に位置付けられるサービスを提供するMVNO事業者は10社を超え、過当競争状態にある。今後MVNO事業者が厳しい競争に勝ち残るには他の事業者のサービスとの差別化を図る必要性がある。具体的にはクラウドサービスとの連携を強化し、共通ポイントサービス・ソーシャルメディアの積極活用、特定の会員サービスに限定したサービスの提供(テーマパーク利用における優先搭乗権の付与)、海外旅行とセットとした現地事業者SIMの提供などユーザー体験の差別化を図ったサービスが求められる時代になる。また、日本では犯罪対策の面から敬遠されているプリペイドサービスについて、海外からの観光客誘致を推進する中、短期滞在者向けのプリペイドサービスの充実が望まれ、MVNO事業者にもビジネスチャンスは大きいと考える。

日本市場では以前からM2M分野のMVNOサービスが存在し、セコム「ココセコム」やトヨタ自動車「T-Connect」(旧G-BOOK)などはサービス開始から10年強を経てそれぞれ約100万ユーザーを獲得している。また、(米)Amazonの電子書籍端末「Kindle」や現在はサービスを終了してしまったもののソニーの携帯ゲーム機「PlayStation Vita」ではかつて3G回線によるデータ通信プランが提供されるなどM2MカテゴリのMVNO事例は枚挙に暇が無い。今後はウェアラブルデバイスの普及が期待されており、ヘルスケア系サービスと連携させる形での参入が期待出来る。MVNOビジネスが拡大するには通信モジュールを搭載した製品の増加がMVNOビジネス拡大の鍵となることは間違いない。
たとえばパナソニックが欧米で発売しているデジタルカメラ「LUMIX DMC-CM1」は「スマートカメラ」を標榜している通り、同社のデジタルカメラ「LUMIX」とAndroidスマートフォンの複合製品となっており、日本円で15万円前後する高価格でありながら欧米で高い注目を集めている。TwitterやFacebookといったソーシャルメディアの隆盛で、高品質な写真を投稿したいニーズを受けての製品化となるが、同カテゴリの製品にはサムスン電子やニコンも取り組んでいる。こうしたコンセプトの製品はミュージックプレーヤーやゲーム機等にも応用可能である。新カテゴリの製品は価格やブランド維持、中古端末市場形成の観点から通信事業者経由でなくSIMフリーで販売されるべきである。また、端末メーカーは低価格スマートフォンのみならず、新コンセプト「スマート○○○」の製品に挑戦して貰いたい。
一方でSIMフリー端末は設定が難しいのが難点で、対応周波数や通信規格の問題でMNOが限定されてしまうこと、SIMカードの提供形態が複数存在すること、そして設定作業をしなければならないことなどが初心者ユーザーの敷居を上げてしまっている。一部メーカーの製品では設定の簡便化に取り組んでいるが、業界を挙げての取り組みが必要である。

現在は「格安スマホ」で注目を集めるMVNOサービスであるが、このまま料金競争のみにフォーカスすれば早晩、市場は頭打ちになるのは確実である。今後はMVNO最大の特徴であるフットワークの軽さを武器に多様性に富んだサービス展開を期待するのと同時に端末メーカー各社には新しいカテゴリの製品開発と設定の簡便化を期待したい。

賀川 勝(カガワ スグル) 上級研究員
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