矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

アナリストオピニオン
2013.01.25

揺らぎ始めたAppleの競争力

国内市場におけるiPhone5の人気低下

国内市場はもとより世界のスマートフォン市場を牽引してきた(米)Apple「iPhone」の販売状況に変化が見え始めている。2012年9月末に発売した「iPhone5」が過去最高の予約台数となり、好調なスタートを切ったものの、12月には店頭在庫がみられるようになった。前月まで予約販売となっていたのにも関わらず、最大の商戦期である12月に在庫が潤沢となった事実は業界を驚かせた。

電気通信事業者協会(TCA)が公表した2012年12月の携帯電話・PHS契約数に拠れば、純増数はソフトバンクが27万4700件、auが23万9200件、NTTドコモが23万5100件だった。一方、12月のMNP(番号移行制度)実績は2012年11月に単月で過去最大の流出(マイナス21万2100件)を記録し、契約数がマイナスに転じたNTTドコモは12月にはマイナス13万2100件まで持ち直し、契約数は再び増加した。最大の商戦期で流出拡大を阻止できたのはNTTドコモにとって幸いであった反面、iPhone5目当ての流入を期待していたソフトバンク、KDDIにとって少々、期待外れの結果となった。例年の状況からすればNTTドコモの2012年12月のMNP実績はマイナス20万件前後となっていた筈であり、約7万件の流出を防止できたと解釈できる。

Appleの2012年10~12月期売上高は前年同期比18%増の545億1,200万ドルだったが純利益は前年並みの130億8,000万ドルに留まった。iPhoneの出荷台数は前年比29%増の約4,800万台、iPadは前年比48%増の約2,300万台を記録したが、Mac、iPodの落ち込みが大きく、iPhone、iPadへの依存度が更に高まる結果となった。また市場で7型ディスプレイ搭載タブレットの人気が高まる中、iPadの出荷台数は頭打ちとなっていることに加え、「iPad mini」の導入により単価下落と収益率悪化を招いており、かつてのようにAppleの業績を手放しで褒められる状況ではなくなっている。株式市場もAppleの状況変化を敏感に反映しており、2012年に一時700ドルに達した株価は2013年1月現在、500ドルを切る水準に下落している。

NTTドコモが「iPhone」を導入しないのか?

NTTドコモによるiPhoneの取扱いに注目が集まっているが、NTTドコモはiPhoneの導入には慎重な姿勢を崩していない。その理由として下記が挙げられる。

  • NTTドコモのスマートフォン戦略との乖離
  • 国内メーカーの保護

Appleの「iPhone」は通信事業者を中抜きする形でサービス、コンテンツを一体提供している。対するNTTドコモはAndroidスマートフォンを中核に据え、独自サービスである「spモード」を提供している。NTTドコモはiPhone上でspモードが利用出来ない理由によりiPhoneの導入に慎重な姿勢を見せている。一方、KDDI、ソフトバンクはiPhone向けにブラウザベースで独自のサービスの提供を開始しており、NTTドコモも同様の仕組みを整備することで同様のサービスを立ち上げることは可能である。しかし、NTTドコモがこれまで推進してきた「おサイフケータイ」について、iPhoneはFeliCaを搭載しないため、利用することが出来ず、依然としてNTTドコモのスマートフォン戦略と乖離するところが大きい。

また、Appleは通信事業者との間にコミットメントを課すことで有名である。NTTドコモはこれまで国内メーカーを中心に国内メーカー保護の観点からiPhoneの導入が実現していない事情がある。特にシャープ、パナソニック、ソニー、NECなどの国内電機メーカーの業績は低迷しており、NTTドコモがiPhoneを扱ったとすると、国内メーカーの調達数は減少し、淘汰の可能性が高くなる。

NTTドコモのMNP流出は2012年12月の段階でマイナス98万6,000契約に達し、2011年度実績のマイナス80万契約を既に上回っている。一方で2012年12月単月の結果であるものの、NTTドコモは既存メーカーのAndroid搭載スマートフォンの販売が好調だったこともあり、他社へのMNP流出を抑制することに成功した。また、(米)Amazon「Kindle Paperwhite」へのMVNO提供などにより「通信モジュールでの顧客獲得」に成功するなど、2012年12月の契約状況はNTTドコモにとって一筋の光明を見出す結果となった。しかし、iPhoneの存在がNTTドコモのMNPでの顧客流出の大きな要因となっているのは間違いなく、これ以上の顧客流出を避けたいNTTドコモにとって難しい経営判断を迫られるのは確かである。

NTTドコモはハンドセット調達数の20%前後に収まるならiPhoneを扱いたいと言明している。裏を返せば現在の状況でiPhoneの取扱いを開始した場合、更に高い比率になる可能性が高く、既存メーカーの端末がiPhoneに対抗出来る完成度になる迄、発売には踏み切らないのかもしれない。2013年春モデルではSONY「Xperia」がフラッグシップ端末として扱われているが、各商戦期においてリードデバイスを継続的に提供し続けることで端末ラインアップの底上げを狙っているものと推察できる。仮にNTTドコモがiPhoneの取扱いを開始した場合、販路拡大による上乗せが期待できる一方、ソフトバンク、KDDIはMNPによる新規顧客の獲得に歯止めが掛かり、ソフトバンク、KDDIのおける販売台数が減少することは間違いがない。

王者Appleが抱える問題と今後の見通し

業界内ではAppleの勢いが何処まで続くかが何かと話題になってきた。2013年1月現在、Appleはグローバルでの販売台数が伸び悩み、年明け以降、部品メーカーへの発注数を減らしているとの報道が相次いでいる。実際、世界最大市場の一つである中国市場において、中国メーカーの伸張によりiPhoneの販売台数は市場全体の伸びを下回っており、市場シェアは下降している。一方、国内における報道については、Apple製品の場合、通信事業者ショップやAppleショップなどの比率が高いこと、2012年10月末に発売した「iPad mini」の品不足が続いていることなどから必ずしもApple製品の販売が不調であるとは言い切れない。仮に販売が伸び悩んだとしても通信事業者はAppleとの間に購入契約が存在するため、新たなキャンペーンを打ち出して拡販を測る筈である。

一方、ティム・クック体制に移行して以降、iPhone5の事前情報リークの多発、iOS6における地図問題、製造委託している鴻海精密工業の労働争議など数多くの問題が表面化した。また、前CEOだったスティーブ・ジョブズ氏が否定した小型ディスプレイを搭載したiPadの商品化についてもiPad miniとして発売されるなど、Appleの商品戦略についても変化が表れた。
これまでAppleが提供してきた端末、OS、コンテンツの垂直統合モデルは競合プラットフォームに対して、先進的な思想と圧倒的な優位性を持っていた。しかし、Androidがオープンソースとして多くの端末メーカーの参入を促し、世界中の通信事業者から支持されて以降、急速にAppleとの差を詰めてきた。またApple製品、サービスについても伸びしろが小さくなってきており、ユーザーの過大な期待に応えきれないのも確かである。

国内のみならず海外でも先進国を中心にスマートフォンの需要が落ち着きを見せつつある。発展途上国のみならず先進国においても100ドル台のローエンド機の需要が高まっており、ブランド力の高さでハイエンド市場を開拓してきたAppleは頭打ちの状況になりつつある。また、サムスン電子の競争力が強くなり、華為技術、ZTEに代表される中国メーカーも急速に力を付けている。

Appleは矢継ぎ早に新製品を導入してくるのに競合メーカーに対し、競争力を維持できなくなりつつあり、早くもiPhone5に続く新製品導入の噂が出始めている。iPhoneはスペック競争に巻き込まれない商品戦略を進めてきたが、現在ディスプレイサイズの大型化のトレンドからは取り残されている。また、新興国、途上国向けには旧型モデルを安価に提供することで需要を満たしてきたものの、1,000元スマホに代表される低価格機のスペック向上は目覚しく、旧製品を安価に販売するAppleの手法ではスペック及び価格面において競争力を維持できなくなっている。そこでAppleは新興国・途上国に向けた低価格モデルを含めた複数のiPhone新製品を導入する準備を進めているという。
これまでAppleは市場に媚びず、自らの信念と想像力によって製品を提供し、市場からの支持を得てきた。ところがiPad miniの導入では市場ニーズに押された形で導入に踏み切ったものと市場では解釈されており、Appleブランドに対する信頼に綻びが生じつつある。仮にAppleが市場動向に迎合した製品を導入したと市場に判断された場合、Apple神話は大きく揺らぎ、既存ユーザーからの支持を失いかねない。Appleはローエンド市場向けの製品や大幅なスペックアップを実現した新製品を導入するにせよ、同時に市場からのプレッシャーを退けるだけの新しい価値観を提案し続けなければならない。

Appleはこれまで高いブランド力を背景にビジネスを展開させてきたが、販売数量の拡大を前提としたビジネスモデルとスマートフォン市場のコモディティ化による差別化要素の減少によってこれまで構築したブランド価値の維持が難しくなってきている。Apple自身が構築したブランド力が今後ビジネス面において重く圧し掛かっており、2013年は今後のAppleを占う上で重要な年になる。

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賀川 勝(カガワ スグル) 上級研究員
新興国が先進国に取って替わり世界経済を牽引している現在、市場が成熟化するスピードも早くなっています。そのような状況下でお客様にとって本当に価値ある情報を最適なタイミングでご提供出来る様、常に心掛けております。

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